「どうなるかは、まだはっきりとは言えない。黎明のはあまり例のない混血だ。そのために桜城の家を出て陰陽師である小埜家で育ったほど。何か不穏なことになれば、すぐに対応出来るようにと。もとよりこの国に吸血鬼ってのはいないんだ。吸血性のあるものでいうなら蛭(ひる)なんだが、あれはあくまで動物であり妖異となっても動物霊だ。ヒトと変わらない吸血鬼とは違う」
「……ひる?」
「田んぼとかにいる虫だ。皮膚から血を吸うところは吸血鬼と一緒だが、幽霊となっても意思を持つようなことはない。……吸血鬼と鬼人の混血に、果たしてこの国の退鬼師の血が通じるかどうかもわからない」
通じるかわからない? それは――
「黎に、なんの害もない可能性もあるってこと?」
声を上ずらせる私に、しかし白ちゃんは顔を渋くさせた。
「……黎明のと真紅に関しては、総てが否定出来ない、という言い方しか出来ない。言ったように、前例がないからな。真紅の血に関しても、どの程度の濃さかという話にもなってくる。紅亜様と真紅が桜木家と絶縁している以前に、退鬼師・桜木はもう廃れてないものなんだ。今の桜木の血族に、退鬼師性のあるものはいないはずだ。真紅は小路の血も引いているから、今妖異の類(たぐい)が視えているのかもしれない。……せっかく頼ってくれたところをすまないが……」
申し訳なさそうに眉をしかめる白ちゃん。総てが否定出来ない、か……。
そもそも属する国が違うから、私に流れている血が異国の鬼に有効なものかも判然としないということか。
顔をあげた私を制するように、白ちゃんが口を開いた。
「だからといって、すぐに真紅の血を調べるために妖異と接触させるようなことは出来ない。まさか、鬼の前に連れて行くなんてもってのほかだ。桜木であると同時に、真紅は小路の始祖の転生――妖異に狙われる身であると忘れないように」
厳しく言われて、私は顎を引いた。そうだった。
退鬼の血という方にばかり気をとられていたけど、昨日黒藤さんが逢いにきた理由は、私が小路の始祖の転生だからだ。