「真紅、歩けるか?」
「歩く」
黎の腕から降りて、靴を脱ごうとしたときに、
「……ぁれ」
ふらりとまたよろめいた。
「……座れ」
呆れ気味の黎に促され、玄関にすとんと座り込んだ。アパートの一室。キッチン部分と、畳の部屋。
黎は私の前に膝をついて、靴を脱がせた。
「!!!」
え! な、何をされている……⁉
鮮やかな手つきに叫ぶことも出来ない。
「ねえ……『何』なの? あなたは……」
まさかだけれど、執事とかそういったことの経験者なのだろか。
「吸血鬼だよ。真紅の血がほしいだけの」
「………」
私は、血なら役に立てるんだ。
「あげるよ」
「………」
「ん?」
私から外した靴を揃える吸血鬼が、顔を上げる。
「血が欲しいんなら、あげるよ」
「……急にどうした?」
「私なんかで役に立つなら、血でいいんなら、あげるよ」
「交換条件でも出しそうだな?」
「うん。私の最期を看取ってくれたら」
「………」
「私のね、両親は離婚してて、父親の顔は知らない。お母さんは恋人のところにいる。私は、この部屋で死ぬようなことがあったら誰も知られずに腐敗していくだけなの。だから、あなたが私の最期を看取ってくれるって言うなら、私の血は全部あげる」