「いらっしゃいませ」

 土日の騒がしい店内でドアにつけられたチャイムが鳴った音に反応して由香里は目線だけ客へ向けそう言った。

「三番テーブルに案内お願い」
「分かりました」
 入れ違いに先ほどまで窓際の三番テーブルに座っていた若い男女が会計を終え、店を出ていくと同時に三十代前半ほどの男女が入店し店員を探す目をあたりへ向けていた。
 由香里は「今ご案内いたしますので、少しお待ちください」と言って小走りでお盆と布巾を手にして三番テーブルの上に置かれたティーカップや皿を片づけた。


 大学生の由香里は個人店のカフェと居酒屋でアルバイトをしていた。
休日は特に忙しく日中はここのカフェでアルバイトをした後高確率で居酒屋のアルバイトが入っているから土日はほぼくたくたに疲れ切っている。
 高校生時代よりも体力が付いたのではないかと思うほどだ。

「どうぞ、ご案内いたします」

 男性の後に女性が続くようについてくる。どちらも落ち着いた雰囲気を纏っていたから結婚している夫婦なのかと思った。接客業をしていると様々なお客を目にする。
驚くことを要求するお客様は神様だと本気で思っているような非常識な客も何人も見てきたが案内した男女はそういった客とは真逆だった。

「ありがとう」
「今、メニューお持ちします」

 席へ案内するという従業員としては当然の行為ですらありがとうと声をかけてきた男性は目尻を下げ穏やかなオーラを醸し出す。しかし目元ははっきりとした二重で眉がきりっと整えられており加えて鼻も高いことから喋らなければ正統派のイケメンだと思った。


 一方で女性の方はほぼ化粧をしていないようで、素朴な顔をしていた。しかし化粧をしていないからなのかは不明だが肌は驚くほど白く肌理が細かく同性として羨ましいと思った。

 メニュー表と水、おしぼりを持って三番テーブルに運ぶと既に他のお客が手を挙げているのを目の端で捉え由香里は違うテーブルに向かった。


 16時を過ぎるとようやく店内はぽつぽつと空席が目立ち始める。
内心ほっとしながら皿を洗いに裏に下がった。
同じアルバイトの年齢が二つ上の高塚が「お疲れ様」と既にエプロンを外しながら声を掛けてくる。

 艶やかなボブ髪を手で整える彼女を見ながら由香里も「お疲れ様です」と言った。
一見人と関りを持たないような冷たい印象を持つ高塚だが、話すと真逆で面倒見のいい姉御肌の女性だった。シフト的に彼女は先に上がるようだ。

「今日も夜バイト?」
「そうなんです。居酒屋も体力使いますからね…憂鬱です」
「わかるよ。私も少し前まで時給いいから居酒屋のバイトしていたけど結構きつくてやめちゃったから」
「ですよね」

 と、「すみません」と店内から声がした。追加オーダーが来たのかもしれないと由香里は早歩きでテーブルに向かった。よくここのカフェに来る常連客がコーヒーの追加を注文したかったようだ。