だが、やはり人型であり、人ではなかった。
 耳が二人と同じように頭上にあり、ぴくぴくと動かすことができる。
 手をひらひらと動かしてみたると袖の長い、巫女装束のようなものを着ていた。

「さあ、中にお入りください」

 二人に誘われて、琴子は社の中へと歩みを進める。


 社の中に入ると手慣れた手つきで二人のうちの一人がろうそくに火を灯す。

「私は日和(ひより)、こちらは葵(あおい)でございます。これからミコ様のお世話をさせていただきます」

 そういうと深々と二人は琴子に向かいお辞儀をした。

「今代のミコ様はあなた様となりました。あなた様にはこちらで神獣の象徴として町を見守っていただきます」
「しん……じゅう……?」
「この町『ナラ』では鹿が神獣として敬われております。あなた様はその最高位、ミコ様でございます」
「ミコ……様?」

 琴子は頭がパンクしていた。この町では鹿が敬われるだけでなく自分は最高位ミコ、つまり偉い人らしい。

「ミコ様は人語を理解できる唯一の存在でございます」
「え……でも今普通に話しているけど……」
「それはミコ様が私たちの言葉を理解なさってお話されているだけでございます」
「え……そうなの……?」

 琴子が二人と話している今、人間にはただの鳴き声にしか聞こえていないというわけだ。