「日和~葵~」
「なんでしょうか」
「金魚すくいに大会なんてあるの?」
「……ミコ様、何をおっしゃっているのですか?」
「え? 私変なこと言った?」

 モニターを座って観察していた琴子は身体をひねらせながら二人のほうを振り返る。

「ミコ様、もう少しこの土地について学んでくださいませ」
「ご、ごめん」

 母親に叱られた子供のようにシュンとなる琴子は、口をとがらせながら床板を木を指でこする。

「金魚すくい大会は、この『ナラ』の夏の風物詩の一つと言っても過言ではありません」
「ほえ~。金魚すくいの大会ってすくった金魚の数を競うの?」
「はい、基本は制限時間内にすくった金魚の数で順位を競います。個人戦と団体戦があり、子供たちは金魚すくいの習い事にいって練習します」
「金魚すくいの習い事?!」
「はい、なので金魚すくい大会は生半可なものではありません。闘いなのです」
「おお、、、なんか熱いね、葵」

 そういうとこっそりと葵に聞こえないように日和が琴子の耳元で呟く。

「以前、葵は金魚すくい大会に出場して優勝を逃したんです」
「え、鹿なのに出たの?!」
「先代のミコ様に後でバレて怒られてました」
「だよね……」

 その時の優勝景品の高級マスカットがどうしてもほしかったらしく、葵は先代ミコが寝ている隙に出かけて大会に出場した。
 あとでその様子をテレビで見ていた先代ミコが見つけ、葵は帰ると同時にこっぴどく叱られたのだそう。