「僕は男です。なのにみんな可愛い、可愛いばかり。僕はかっこいいと言われたいんです!!」

「ええ…………」

 琴子は思わずあっけにとられた。
 まさか失踪の理由が「かっこいいと言われたかったから」とは思わなかった。

「でも実際、なでなでうさぎさん可愛いし……」

「もうこりごりなんです!!可愛いは!!僕はかっこいいとみんなに言われたい!!」

 琴子はどうしようかと考えたが、どうにもいい解決案が思いつかなかった。

「そこをなんとか、戻っていただくわけには……」

「嫌です!!もう我慢の限界がきました!!僕は帰りません!!」

「困りましたね、ミコ様」

「このままでは神主様の願いを聞き届けられません……」

「うん……」

 すると、琴子たちの近くで女子高生の声がした。

「もう!ほんまになんなん?!いつもいつもノート貸して貸してって、自分で書けばいいやん!」

「だから、書いてても聞き逃しちゃうねんって!別にいいやん減るもんじゃないし!!」

「その言い方と態度がまた腹立つねん!!」

 よく回りを見渡すと女子高生だけではなく、若い男女のカップルも喧嘩をしていた。

「もう!さっき通った女の子じろじろみてたやろ!」

「見てないって!!誤解やってゆったやん!!」

「嘘つき!もう知らん!!」

 縁結びのご利益が解けかけているためか、町の人々の仲が悪くなっていた。
 琴子はまずいと悟りながらもこの事態にどうすることもできないでいた―