「場所さ、こっちに座ってくんない?」
瞬が指差ししてるのは、瞬が座ろうとしているスチールベンチの左側だった。
「え?なんで?」
ただ咄嗟に聞き返した私に瞬が、少しだけ言いにくそうにしてから、口を開いた。
「俺、右耳ほとんど聞こえないんで」
「え?……あ……わかった」
慌てて、私は、瞬に場所を譲って、昨日のように、一人分空けて、瞬の左隣に座り直した。そっか……右耳が聞こえないと瞬は言った。瞬は、自身の左耳が、私の声を拾えるように、自身の左側を指定したのだと気づく。
「その……昨日はごめん」
そして、先に謝罪の言葉を口にしたのは、瞬だった。
「あ、あの……私も、ごめんなさい」
「え?何で、あ、みさんが謝るの?」
「だっ…て……」
昨日は、恵まれた綺麗な容姿の瞬に、勝手に嫉妬して、あげく無視されたと思って、私は瞬に嫌悪感しかなかった。
「その……聞こえないと思ってなかったから、無視されたのかと思って。あと綺麗な顔してるからって偉そうにって……嫌な感じで言い返しちゃって……」
話してるうちに、どんどん俯いた私をみて瞬が、困ったように笑った。
「あ、やっぱ無視してたか」
「え?」
「あのさ、俺もだよ。あみさん見て」
「あみでいいよ。瞬?でいい?」
話を、途中で遮って申し訳なかったが、同年代の男の子に、「さん」付けで呼ばれて、なんだか気恥ずかしかった。
「うん、いいよ。でさ、俺、あみ見た時、正直苦手なタイプだな、って思ったんだ。なんか見た目派手だし、爪ピンクだし。俺の周りの女子と似てたから。俺の見た目だけ見てさ、カッコいいだの、付き合ってくれだの言うだけ言ってさ。……俺のことなんて何もしらないくせにさ。
耳のことわかると、途端に可哀想みたいな顔して……ムカついてた。だから、どうせ俺とは合わない奴だって、見た目で勝手に判断した。見た目で判断されるの嫌なくせにさ……嫌な感じだったよな?」
思わず、こくんと頷いた私をみて、瞬が、本当ごめん、と肩をすくめた。
「お互い見た目で判断してた訳だ」
瞬が笑ったのを見て、私もつられて笑った。