コンビニ袋を片手に、私は翌日も公園に向かった。時間は、バイトを早上がりにしてもらって、昨日より早めの7時に着いた。昨日の()な感じのアイツがまた来るかもしれない。先に到着したかった。

目的のスチールベンチには、まだ誰も座って居なかった。スチールベンチをぐるりと回って、下まで覗き込む。星座の本は、やはり見当たらない。

「やっぱり、無いよね……」

仕方なく腰掛けて、ちいさく溜息を吐き出した、私の右手にカサッとしたものが指先に当たる。

「あ」

スチールベンチの座席に挟み込むようにして、折り畳んだ紙を見つけた。


ーーーーやっぱり、置いてくれてたんだ。

『もうすぐ、みずがめ座流星群が観れるかも
、もし』

 生真面目そうな文字で、いつも1行だけ、星座に関することが記載されてある。今日は最後の『もし』の部分だけが、縦線を何度か書いて消してあった。

ーーーー誰だかわからない。内容は星に関することだけ。いつの間にかこうやって、誰かもわからない人と、私は、『手紙』のやり取りをするようになっていた。

どんな人なのか、一度でいいから、話がしてみたくて、自分の携帯の番号を書いた。結局、いくら待っても、電話は、かかってこなかったけけれど、この手紙だけは、やりとりが続いていた。

『明日は、嫌なことも忘れられそうな一等星のスピカがおすすめ』

『夏の大三角形もいいけど、春の大三角形もキレイだね』

『しし座の尻尾(しっぽ)って見つけにくいけど、見つけたとき嬉しいよな』

そんなたわいもないことを手紙でやり取りする。でも、いつもこの手紙を読むたびに、何だか一人じゃないと思えて、寂しさが和らいだ。

同じように、星が好きで、誰も居ない、声も聞こえない藍の空にただ、星を見つけては心を躍らせる。そんな自分と似た人がいるんだって思うと、ほっとする。

「今日は、星が綺麗……」

本は無くしてしまったけれど、星座の地図も、季節を彩る星の神話も全て頭に入っている。私は星が瞬く夜空に目を細めた。今夜は絶好の『星日和(ほしびより)』だ。思う存分夜空を楽しんで帰ろう。誰もいない藍の空の中で。私は、コンビニ袋を地面に置くと、首を倒せるところまで倒して、真上の星達を眺めた。