「はやっ、マジで」

空っぽになった焼肉弁当を、やや馬鹿にするように、再び彼が口を開いた。私は食べ終わったお弁当にお箸を放り込みながら、彼を睨みあげた。

「な、何なのよ、さっきから、人を馬鹿にして!」

「別に馬鹿にしてねーよ。ただ食ったら早く帰ってくんない?」

「な、何様なの?」

「ここ、先着順だろ、今日は俺が早かったんだからさ。一人で読みたいんだよね、気が散るから」

「……むかつく」

「ほかに何か?」

さっき無視したことなど、何とも思ってないように、自分勝手に話を押し付ける、無神経な態度に腹が立つ。

「もういいっ!」

私は、乱雑にコンビニ袋に弁当を突っ込んで、ゴミ箱に捨て、足早に公園を後にする。僅かに後ろから声が聞こえた気がしたが、私は、振り返らずに走って帰った。

(むかつく、むかつく、むかつく……)

いつもより早く帰ってきても、案の定いつも通り、誰もいない家は、私が明かりを灯さないと真っ暗で、なんだか心まで暗く染まって、苦しくなりそうだった。    

この辺りだと周りに遮蔽物がない、あの公園のあのベンチが一番綺麗に星が見える。今までもよく、寂しさに押しつぶされそうになるたびに、あのスチールベンチに一人座って星座の本を片手に星を眺めた。

本当は今日、あのベンチに座って星を見ながら確認したい事があった。

『手紙』……置いてあったかも知れなかったのに。

自室の2階の窓から夜空を見上げながら、鞄に入れておいた星座の本を取り出そうとして気づく。入れておいたはずの星座の本は鞄の底まで、覗き込んでも出てこない。十年ほど前に、両親におねだりして買ってもらったポケットサイズの星座の本。

お気に入りだったのに……落とした……?何処に?さっき公園で慌てて帰った時に落としたのかもしれない。でも……他で落としたのかもしれない。明日、もう一度公園に探しに行ってみよう。部屋の窓からは端っこしか見えなかったけど、しし座の尻尾が、ちょうど見えて、少しだけ心があったかくなった。

私は、寂しい心を隠すように、膝を抱えて毛布にくるまると、瞳を閉じた。