芸能人の依頼も最近増えております。女優やアイドルは恋愛がスキャンダルになるので、レンタル彼氏というシステムを使うのです。
今日のお客様は、少し前に流行したグループのアイドル女性です。アイドル女性といっても少し落ち目なのですが、グループはまだ解散していませんし、仕事も減ってはいるけれど認知度はあるというアイドルです。
しかし、この先芸能界で仕事が無くなれば、消えたあの人は今? に出るようなにおいがします。一度売れっ子になったので、プライドはとても高く、二十歳は過ぎたけれど若いアイドルには負けないぞ、という気迫が感じられます。
わがままなかわいい女の子という風貌のお客様でございます。
「あなたがショーマ?」
人気声優のようなかわいい声で私に放った第一声です。
気が強い自分に自信のあるタイプには特に優しく接するということを心がけています。下手《したて》にでる。これは必須です。
「私があなたのご指名にあずかりました、ショーマです」
「まぁまぁじゃない? 私に尽くしてもらうわよ。マッサージしてよ。肩がこるのよ。この仕事」
「心を込めてマッサージいたします。まずは下を向いて寝てください」
「秘密は守ってよ。私、有名人なんだから」
「承知しております」
ゆっくり彼女の背中のコリをほぐしました。このために私は、マッサージの資格も取得しています。マッサージと言うスキンシップを望むお客様は意外に多いのです。日本人は肩こりがひどい人が多いらしいので。パソコンを使った仕事やスマホが影響しているのかもしれません。
「あんた上手ね。マッサージの仕事やったら? なんでこんな仕事しているの?」
「お客様に幸せになっていただきたくて、この仕事をしております」
「いやらしい出張マッサージのほうが、稼げるんじゃないの? あんたならホストとか芸能人でも売れるかもよ」
「ありがとうございます」
ショーマは、彼女の背中のツボを刺激する。
「あぁ、気持ちいいっ……」
彼女は萌えた声を出した。
声だけ聞けば、いやらしいことをしているようですが……。
念を押しておきますが健全なマッサージです。
お金もいただいているから手を抜くことはできません。
私はプロですから。
「ねぇ、芸能界って楽しくて明るいイメージがあるけど実際労働基準法は守られないし、露出したくなくても水着強要されるし、きつい仕事よ。将来も不安定だし」
「そのような環境で頑張っている、ゆめか様を尊敬いたします」
ゆめかというのはアイドルネームなのだが、その名前で呼んでほしいらしいのです。本名が地味で好きではないという理由らしいですが。
「どうせお金でつながっているだけの関係だから楽よね。あんたとならば、やってもいいわよ」
「ゆめか様、一時の気の迷いでそのような発言をなさらないでください。あなたは価値のある人間です。もっと自分を大切にしてください」
「芸能界の事務所の社長にその台詞聞かせてあげたいわ」
彼女は悩みを打ち明け始めた。
「最近売れないから、もっと体を露出しろっていわれて。本当は普通の仕事したいのだけど、そのためには枕営業をするしかないとかさ。グラビアや水着は苦手だし。濡れ場シーンもやりたくない。でも彼氏は作るな。恋愛はするな。矛盾してるでしょ」
彼女は怒りの矛先をぶつけてきた。あぁ、この人はこのことを誰かに聞いてほしかったのか。その誰かが私だったのだろう。利害関係はない。お金を払ってギブ&テイクの関係。
雑誌では修正される肌荒れも、近くで見るとかなりひどく、目の下にはくまができ、疲れている様子だった。
「田舎から出てきて、すぐにデビューして売れたからずっとそれが続くと思っていたんだ。私には才能があるって。でも、すぐにみんな飽きて次に行ってしまう。私の価値なんてこんなものなのかもしれない」
アイドルが珍しく弱気になる。弱気を見せたとき、心が開いた証拠になるのです。田舎から出てきて、知り合いもいない東京で彼女は壁にぶつかっている。だからレンタル彼氏なんて呼んだのでしょう。そうでもなければ、利用なんてしないでしょうから。
レンタル彼氏が必要とされるときは、その人自身が満たされていないときなのです。
満たされない相手の心を満たす。たとえそれが一時的でも。それが私の役目なのです。
「あなたは世界で一人しかいません。ですからあなたは価値があるのです。
その価値を相手に示すことが芸能界での生きる道でしょう」
「枕営業なんて……」
「嫌なものは断ってください。あなたは少し疲れているのです。だいぶ肩も背中も凝っていますよ。少しお休みください」
彼女がうれしそうな顔をして私の顔を見ました。
私の眼力を使うとそのまま眠りに落ちるのです。
夢の中で疲れを癒してください。
夢の中では幸せになれるのです。今夜だけはとても幸せになれるのです。
一か月後、アイドルグループが解散したというニュースが流れました。
そして ゆめかは漫画原作者としてデビューしたようです。第二の人生のスタートです。本当にやりたいことがみつかったのですね。これも芸能界というポジションにいたから実現した夢の第一歩なのです。それ以来、ゆめかから予約が入ることはなくなっていたのです。
今日のお客様は、少し前に流行したグループのアイドル女性です。アイドル女性といっても少し落ち目なのですが、グループはまだ解散していませんし、仕事も減ってはいるけれど認知度はあるというアイドルです。
しかし、この先芸能界で仕事が無くなれば、消えたあの人は今? に出るようなにおいがします。一度売れっ子になったので、プライドはとても高く、二十歳は過ぎたけれど若いアイドルには負けないぞ、という気迫が感じられます。
わがままなかわいい女の子という風貌のお客様でございます。
「あなたがショーマ?」
人気声優のようなかわいい声で私に放った第一声です。
気が強い自分に自信のあるタイプには特に優しく接するということを心がけています。下手《したて》にでる。これは必須です。
「私があなたのご指名にあずかりました、ショーマです」
「まぁまぁじゃない? 私に尽くしてもらうわよ。マッサージしてよ。肩がこるのよ。この仕事」
「心を込めてマッサージいたします。まずは下を向いて寝てください」
「秘密は守ってよ。私、有名人なんだから」
「承知しております」
ゆっくり彼女の背中のコリをほぐしました。このために私は、マッサージの資格も取得しています。マッサージと言うスキンシップを望むお客様は意外に多いのです。日本人は肩こりがひどい人が多いらしいので。パソコンを使った仕事やスマホが影響しているのかもしれません。
「あんた上手ね。マッサージの仕事やったら? なんでこんな仕事しているの?」
「お客様に幸せになっていただきたくて、この仕事をしております」
「いやらしい出張マッサージのほうが、稼げるんじゃないの? あんたならホストとか芸能人でも売れるかもよ」
「ありがとうございます」
ショーマは、彼女の背中のツボを刺激する。
「あぁ、気持ちいいっ……」
彼女は萌えた声を出した。
声だけ聞けば、いやらしいことをしているようですが……。
念を押しておきますが健全なマッサージです。
お金もいただいているから手を抜くことはできません。
私はプロですから。
「ねぇ、芸能界って楽しくて明るいイメージがあるけど実際労働基準法は守られないし、露出したくなくても水着強要されるし、きつい仕事よ。将来も不安定だし」
「そのような環境で頑張っている、ゆめか様を尊敬いたします」
ゆめかというのはアイドルネームなのだが、その名前で呼んでほしいらしいのです。本名が地味で好きではないという理由らしいですが。
「どうせお金でつながっているだけの関係だから楽よね。あんたとならば、やってもいいわよ」
「ゆめか様、一時の気の迷いでそのような発言をなさらないでください。あなたは価値のある人間です。もっと自分を大切にしてください」
「芸能界の事務所の社長にその台詞聞かせてあげたいわ」
彼女は悩みを打ち明け始めた。
「最近売れないから、もっと体を露出しろっていわれて。本当は普通の仕事したいのだけど、そのためには枕営業をするしかないとかさ。グラビアや水着は苦手だし。濡れ場シーンもやりたくない。でも彼氏は作るな。恋愛はするな。矛盾してるでしょ」
彼女は怒りの矛先をぶつけてきた。あぁ、この人はこのことを誰かに聞いてほしかったのか。その誰かが私だったのだろう。利害関係はない。お金を払ってギブ&テイクの関係。
雑誌では修正される肌荒れも、近くで見るとかなりひどく、目の下にはくまができ、疲れている様子だった。
「田舎から出てきて、すぐにデビューして売れたからずっとそれが続くと思っていたんだ。私には才能があるって。でも、すぐにみんな飽きて次に行ってしまう。私の価値なんてこんなものなのかもしれない」
アイドルが珍しく弱気になる。弱気を見せたとき、心が開いた証拠になるのです。田舎から出てきて、知り合いもいない東京で彼女は壁にぶつかっている。だからレンタル彼氏なんて呼んだのでしょう。そうでもなければ、利用なんてしないでしょうから。
レンタル彼氏が必要とされるときは、その人自身が満たされていないときなのです。
満たされない相手の心を満たす。たとえそれが一時的でも。それが私の役目なのです。
「あなたは世界で一人しかいません。ですからあなたは価値があるのです。
その価値を相手に示すことが芸能界での生きる道でしょう」
「枕営業なんて……」
「嫌なものは断ってください。あなたは少し疲れているのです。だいぶ肩も背中も凝っていますよ。少しお休みください」
彼女がうれしそうな顔をして私の顔を見ました。
私の眼力を使うとそのまま眠りに落ちるのです。
夢の中で疲れを癒してください。
夢の中では幸せになれるのです。今夜だけはとても幸せになれるのです。
一か月後、アイドルグループが解散したというニュースが流れました。
そして ゆめかは漫画原作者としてデビューしたようです。第二の人生のスタートです。本当にやりたいことがみつかったのですね。これも芸能界というポジションにいたから実現した夢の第一歩なのです。それ以来、ゆめかから予約が入ることはなくなっていたのです。