なぜならば、僕の好きな人でもあり、麻子(まこ)の母親でもある百合(ゆり)は、ニ年前に病気で亡くなってしまったのだ。

 あれはまだ麻子が一歳になったばかりの頃だった。突然のことで理解できなかったことを今でもよく覚えている。

 だから、麻子も母親のことをぼんやりとしか覚えていない。亡くなったことを理解できていない。

 それは、当然なことだ。

 僕だって、まだ受け入れることができていない。前に進むことだってできていない。

「あした? それともまだまだ?」
「うーん、そうだねぇ。しばらく時間がかかるみたいだよ」
「しばらくっていつ?」

 三歳とは、まだまだ子どもだと思っていたけれど女の子はませているみたいだ。

「えーと、それはだなぁ…」

 問い詰められる僕の方がたじたじになる。

 仕事で忙しかった僕は、麻子の子育てをろくに手伝ってあげることができなかった。その代償に、僕はいまだに麻子との接し方に悩んでいる。