暗くなる頃、ちょうど明に車のキーを渡したタイミングで、明の彼氏が来るはずの方角からパトカーが見えた。

「嘘、こんな早く見つかっちゃうなんて……。逃げよう、めい姉」

 絶望に震え逃げようとする私の振袖を明が掴んだ。

「逃げようよ。早く逃げないと捕まっちゃうよ」

「私が警察にチクった。二人で放火したって」

 明が私を馬鹿にしたように笑った。明の言っていることがよく分からなかった。

「今からめい姉の彼氏が迎えに来てくれるんだよね?」

「そんなこと言ったっけ? 彼氏なんて来ないよ」

 明は私の振袖を離さない。意味深に笑いながら問いかける。

「私が暦に嘘ついて裏切ったって言ったらどうする? 私がチクったから、暦は今から警察に引き渡されるんだよって言ったら、暦は私のこと嫌いになる?」

 傷つけられてばかりの世界で明だけは私の希望だった。逃げ場のない世界でも、明がいたから私は生きていられた。明は私の世界の全てだった。

 明は嘘をつかない。明だけは私を裏切らない。

「そんなことありえない! だってめい姉は私を裏切ったりしない。私はめい姉を信じてるもん!」

 パトカーを前に、私は大声で叫んだ。生まれて初めて、まともに自分の意志を表示した。