「ふざけんなよ、こよ姉は何も悪くないじゃんか!」

 心を閉ざした私の異常に気付いてくれたのは明だけだった。

「事故だったんだろ? 事件じゃなくて事故なんだから、こよ姉の父さんは人殺しなんかじゃないだろ! こよ姉の父さんにも悪いところがあったとしても、それはこよ姉の責任じゃないだろ!」

 明は私の心のドアをこじ開けるどころか火をつけて燃やした。明の温もりに久しぶりの生を実感した。

「私は母さんに捨てられたのを弟のせいにしたりなんかしない! 私をいなかったことにして、弟は幸せな生活送ってるらしいけどさ、弟をいじめてやろうなんて思わない。丸山弥生もそいつん家のババアもみんなおかしい。私がぶっ飛ばしてやる!」

 私のために本気で泣いて怒ってくれた人。明だけが私の光だった。

「こよ姉をいじめるな!」

 でも、小学生にとって二歳の差はとてつもなく大きい。明は弥生に殴りこみに行ったが、返り討ちにあった。

「あんたの姉さん、警察官になったんだって? 知ってる? 警察って身内に犯罪者がいるとクビになって、路頭に迷うんだよ」

 やらなければ殺すと脅されて行った万引き。その犯行の一部始終を撮った写真を見せられた。姉に迷惑をかけるわけにはいかない。

「あんたも、チクったりやり返したりしたらその分だけ暦が酷い目に合うんだからね。奴隷二匹目ゲット。バカだね、余計なことに首突っ込まなきゃ平和な生活送れたのにね」

 弥生はゲラゲラと笑った。

「飛んで火にいる夏の虫っていうんだっけ、こういうの。新しい玩具が手に入ってラッキー」

 明を巻き込んだそれは中学に行っても高校に行っても続いた。里子は普通十八歳までだけれど、弥生の母はサンドバッグとしての私を手放さなかった。地獄は専門学校進学後も続いた。昨日も脅された。

 脅されて何度も重ねさせられた罪で穢れた手。逆らおうとしたら、逃げようとしたら、写真を姉の職場に送りつけてやる。インターネットで世界中にばらまいて、この世から居場所を失くしてやる。写真をひらひら見せながら弥生は高らかに笑った。データのバックアップがパソコンにもスマホにも入っているらしい。

「明日の成人式、パシリが二匹もいると楽でいいわ」

 明は連帯責任と称して同じように脅された。私がいないところでも何度か呼び出されていたらしい。私のせいで明を巻き込んでしまった。