魔女と竜は惹かれ合う。魔女は花から、竜は炎から生まれる。竜の息吹である炎の灰から新たな竜が生まれた日、この地上のどこかのスズランの花から魔女が生を受ける。同じ日に生まれた竜と魔女は必ずいつか巡り会う。魔女の多くは十歳になれば魔力に目醒める。目醒めた魔女が空に血を捧げ歌えば、運命の竜と魂が共鳴する。その時こそ、竜が魔女を連れて争いばかりの地上を離れて空の彼方の楽園へと飛び立つのである。

「ロヒカルメ ロヒカルメ
魂のペルヘ
ノイタ・エリザの名の下に
炎と青き血の盟約を
その猛き翼で我を
タイヴァスへと誘え」

 裁縫用の小さな針を小指にぷつりと刺して今日も竜に捧げる歌を歌う。この歌は誰に倣ったわけでもなく本能に刻まれていた。小指の先に小さな青い血の玉が浮かび上がった。

 魔女の血は青い。だからこそ、人間は魔女を忌み嫌うのだろう。血の色が違うから気味が悪い。私が生まれる遙か昔から魔女狩りは行われていたが、最初の理由はきっとそんなものだろう。魔女は人間の脅威となるような魔法など使えないのだから。対して、竜は魔女と同じ血の色だから共に生きていけるのだろう。竜と魔女の結びつきは本能だという。

 北欧の小さな村の外れの湖。その畔にある小屋が姉のライカと私の棲み家。姉と言っても、血の繋がりはない。私達は同じ母に育てられた捨て子同士だ。

 そして、ライカと私はともに青い血を持つ魔女として生まれた。だから、魔女狩りに遭わないようにひっそりと慎ましく支え合いながら生きている。十歳の誕生日を迎えたその日から伝承に倣って歌い、毎日竜を呼び続けた。けれども十四歳になっても未だに楽園への迎えは来ない。

「でも、もしエリザだけ先に目醒めちゃったら私を置いて行っちゃうの?」

 私よりも少し背の低いライカが寂しげに私の服の裾を掴んだ。

「ライカも一緒に背中に乗せていってもらおうよ」

「無理だよぅ。だって、私達の運命の竜は子どもの竜だもの。だから、きっと二人は乗れないよ」

「それなら待つよ。ライカが一緒に行ける日までずっと」

「本当?エリザ、大好き」

 ライカが私に抱きついた。栗色の長い髪から、スズランのような良い香りがした。

「そんなこと言って、ライカの方が先に目醒めたりしてね」

「絶対にないって。だって、エリザの方が魔力があるもの。うう、私がお姉ちゃんなのに」

 私は天気の変化に敏感だ。そして、私は身体能力が高い。大人の男性よりも足が速いかもしれない。血を流してはいけないからよその子と喧嘩をしたことはないけれど腕っぷしにも自信がある。事実、年の離れた姉との喧嘩にだって勝ったことがある。それらをエリザは魔力だと表現するが、ただの個人差だ。もし私の魔力が高いのであれば、十四歳になってなお竜を呼べない訳がない。

「タイヴァスってどんなところなんだろうね」

 ライカが空を仰いだ。タイヴァスとはこの国の言葉で、空そのものを表す。けれども、私達魔女にとっては、タイヴァスとは伝説上の楽園を指す言葉なのだ。迫害も処刑もない空の彼方の国に、飛べない魔女は焦がれ続ける。