病室にはひっきりなしに、クラスや部活での友人だという生徒が男女問わず、電車に乗ってやって来た。
「凛、大丈夫? 無理しなくていいよ」
 彼らは一様に思いやりがあり、常に凛の体調を気遣った。
「これ、みんなで買ったの」同じ手芸部だという三人の女子生徒は、フェルトやボールチェーンといった手芸用品を部員で揃えのだと持ってきてくれた。「あとこれ、凛が作りかけだったぬいぐるみ。元気になったらでいいから、やってみて。暇つぶしにもなるし!」
 彼らは彼女が忘れていてもいいように、作り方をプリントした紙も揃えている。
「ありがとう。すごく嬉しい」笑ってそれらの入った紙袋を抱く凛は、しかし僅かに表情を曇らせる。「私、こんなにしてもらってもいいのかな」
「どうして?」
「ここまでしてもらって、何だか申し訳なくて」
「いいんだよ。だって、もし立場が逆だったら、凛も絶対してくれたもん」
「そーだよ。だって凛は、私たちのこと大好きだったんだからね」
「みんなの誕生日覚えててさ、おめでとうって一番に言ってくれたし。部活なくても教室までプレゼント持ってきてくれたんだよ」
 友人たちは口々にそんな思い出を語って笑う。凛もつられて笑う。楽しくて仕方のない時間。
 だが、それと同時に彼女の中には罪悪感がどこまでも湧き上がってしまうのだ。それほどまでに自分が愛していた友人、自分を愛してくれている友人のことを、ちっとも思い出せない。彼女たちは恩返しだと言ってくれるが、自分がそれほどの義理を働いたのか常に疑問に思ってしまう。覚えていたはずの、彼女たちの誕生日。それを一つも思い出せない。それどころか今は名前一つ分からないし、語ってくれる思い出にも共感できるものがない。
 全く他人同然の彼らが尽くしてくれるのに、申し訳なくてたまらなくなってしまう。
 そして凛のそんな感情は、いくら隠しても彼女たちに伝わってしまう。
「じゃあ、そろそろ帰るね。また来るから」
「うん。来てくれて、ありがとう」
 いつもそんなやり取りをして手を振る。そして互いに見えなくなってからほっとする。相手を傷つけずに済んだことに安堵し、気まずい思いを隠し続ける。凛も彼らへの正しい接し方が分からなかったし、彼らもどうすれば凛を救えるのかが分からないのだ。
 そのためか、日が経つにつれ徐々に凛のもとを訪れる生徒は減っていった。凛はそれを寂しいとは思わなかったし、むしろ安心した。友人たちはとても優しい。だからこそ忘れていることで傷つけたくなかったし、気を遣わせるのも気が引ける。