善は急げと、その日のうちに情報誌に載っていた電話番号へ電話をかけた。スムーズに話は進み、二日後の木曜日の放課後には面接を行うことが決まった。
 問題はここからだ。緊張しながら、翔太は自転車で二十分の道のりを漕いだ。数えるほどしか訪れたことのない隣町に、雑貨屋「オリオン」はあった。近隣にネットカフェやファストフード店、ドラッグストアなど様々な店が並ぶ賑やかな場所だ。三階建てのビルだが、覗う限りフロアはあまり広くはない。一階にはジュースや菓子、弁当などが並び、二階には化粧品や文房具が並んでいる。それらを脇に見ながら、翔太は従業員の案内に続いて三階の事務室に向かった。
 面接の相手は、三十前後の男だった。(くすのき)雄一(ゆういち)という名で、この店の店長らしい。穏やかな印象で、翔太はとりあえずほっとした。
 楠は翔太の履歴書に目を通し、一通り質問をすると、不思議そうに言った。
「授業料のためだったよね。四月の時点でバイトはしてなかったのかな」
 当然の質問だ。それに対し、勝也に関して喋る必要はないと翔太は打算的に考えていた。身内になる予定の人間が犯罪者になって……だなんていちいち説明していれば永遠にバイト先なんて見つからない。
 ただ嘘を吐くのは嫌だったし、この場を嘘で乗り切ってもいつしかボロが出る。
「伯母が出してくれていたんですが、少し厳しくなったので。相談した結果、自分で払うことになりました」
「伯母さん?」ファイルが雑多に積み上がるデスクの前で、楠は訝しげな顔をした。「ご両親は」
「いません」
 翔太が即答したことで、楠はいくらかを察したらしい。なるほどと頷いている。一方の翔太は、この回答が吉と出るか凶と出るか、戦々恐々としながらただ相手の回答を待つ。
「そのせいかな。随分しっかりしてると思ったんだ」
 心象は悪くなかったようだ。むしろ好意的にとってくれたらしい。
「ただ言っておかないといけないけど、あまりがっつりは入れられないよ。辞めた人の穴埋めって言うより、お客さんが増えてきてね、今の人数じゃ回すのが難しいんだ。その分だけってことになるけど、構わないかな」
「時間にしたらどれぐらいですか」
「そうだね。せいぜい一日三、四時間で週に三回ぐらい。この条件だと大人は稼げないって来てくれないんだよね」
 週に三回なら十分だ。金を稼ぎたいというよりも、授業料を払えれば文句はない。
「大丈夫です」どぎまぎしながら翔太は返事をした。「僕には、十分です」そうも付け足した。
 三十分ほどで面接を終えると、楠は来週以内に電話で合否を教えるからと言った。
 頭を下げて店を後にする翔太に、僅かな罪悪感がないわけではない。けれど聞かれてもいない勝也の話をべらべらと喋ることが正解だとも思えない。これがきっと、上手な生き方なのだ。
 新たに一週間が始まると、これもまた気が気ではなかった。学校から帰って留守番電話が入っていないことにほっとしながらも落胆し、耳を澄ませて宿題をする一日は神経を疲れさせた。
 忘れられていないだろうか。そんな不安を抱えながら過ごしていた金曜日、夕飯を作っている最中に電話が鳴った。
 咄嗟にガスを消して手にした受話器の向こうで、楠は六月から来て欲しいと言った。