——片野くんへ。
こんにちは。
こんばんは。
……おはよう、かな?
もう知ってるかもしれないけれど、私は遠くの街に引っ越しました。
手紙でのお別れで、本当にごめんなさい。
今日まで、ご飯に誘ってくれてありがとう。すごくうれしかったです。でも、話したいことはたくさんあったのにほとんど話せなかったな。面と向かうと緊張しちゃうから、やっぱり私は手紙の方が合ってるみたい。長くなるけど、もしよければ読んでください。
実は私、家が貧乏になっちゃって。
そんなこと、言わなくても片野くんはわかってたかな。スマホも持ってなかったし。制服はまだ半年しか経ってないのにテカテカだったし。
実はね、一年前、お父さんが脳梗塞で亡くなって。それからお金がなくなっちゃったんだ。片野くんは小さい頃家に遊びにきてくれたこともあったし、伝えなきゃとは思ったんだけど……話すと泣きそうになっちゃうから言えなかった。ごめんね。
私ね、高校では中古の制服を着てたの。お母さんの友達の娘さんが昔この学校を卒業したっていうから譲ってもらえたんだ。ちょっと年季が入ってて、ポケットに穴も開いてたんだけど、ただで譲ってくれるっていうからありがたかった。
ただね、ポケットに穴が開いてるのは彼女の制服の扱いが悪かったわけじゃなくて、わざとやったんだって。ジンクスがあったの。ポケットに穴を開けると、その穴から幸せな恋がやってくるって。
娘さんはそんなご縁なかった、って言ってたらしいんだけど。私は、あったよ。
片野くんとの出会いが。
久しぶりに公園で会えた時は本当にうれしかったな。私、あの頃ずっと片野くんのこと考えてたから。
……私、片野くんに謝らなきゃいけないことがあるの。
私の制服のポケットね、実は片野くんのポケットとつながってたみたいなの。
いつかね、制服のポケットから片野くんの生徒手帳が出てきた。もちろん盗んだわけじゃなくて、いつのまにか入っていたから返さなきゃと思ってたんだけど、またいつのまにかなくなっていて。
そしたら次は、スマホやお金なんかが出てきて……。
しばらくして、ポケットの秘密に気づいたの。
今まで隠していてごめんなさい。
でも、個人情報は見ないようにしたよ。スマホは触らなかったし、小銭なんかももちろん盗まなかったから安心して。
それでね。
……私のポケットの中身も、そっちに行っていたんだよね?
私、クラスメイトにたまに、ノートにいたずらをされてて。悲しい気持ちでそれをポケットにしまってた。でも捨てられなくて。うちの学校はお嬢さま学校なんて呼ばれてたから、みすぼらしい私がそばにいることに気持ち悪さを感じてる、彼女たちの気持ちを否定できなくて。
それでポケットにしまい込んでたら、いつからか、消えてなくなるようになった。
きっと、片野くんが私のかわりに持っていってくれたんだよね。
……ありがとう。
毎日が苦しくて、でもその中で、何も聞かずに寄り添ってくれる片野くんの存在は私にとって希望でした。
私、片野くんのことが、好きです。
いきなりこんなこと言って、ごめんなさい。本当は言わないでいようと思ってた。片野くんは私と違ってたくさん友達がいるから、私なんかに告白されても迷惑だろうし。おまけに引っ越すんだから、今更こんなこと言われても困るってわかってる。
ただ、やっぱり、気持ちだけは伝えたくなってしまって……。
離れても片野くんと文通できたらすてきだなって思ったけど、そこまでおこがましくはないから。最後に、伝えさせてください。
片野くん、ありがとう。
あなたのことが好きでした。
ずっとずっと、ずっと。
あなたの幸せを、祈っています。
百瀬華乃
こんにちは。
こんばんは。
……おはよう、かな?
もう知ってるかもしれないけれど、私は遠くの街に引っ越しました。
手紙でのお別れで、本当にごめんなさい。
今日まで、ご飯に誘ってくれてありがとう。すごくうれしかったです。でも、話したいことはたくさんあったのにほとんど話せなかったな。面と向かうと緊張しちゃうから、やっぱり私は手紙の方が合ってるみたい。長くなるけど、もしよければ読んでください。
実は私、家が貧乏になっちゃって。
そんなこと、言わなくても片野くんはわかってたかな。スマホも持ってなかったし。制服はまだ半年しか経ってないのにテカテカだったし。
実はね、一年前、お父さんが脳梗塞で亡くなって。それからお金がなくなっちゃったんだ。片野くんは小さい頃家に遊びにきてくれたこともあったし、伝えなきゃとは思ったんだけど……話すと泣きそうになっちゃうから言えなかった。ごめんね。
私ね、高校では中古の制服を着てたの。お母さんの友達の娘さんが昔この学校を卒業したっていうから譲ってもらえたんだ。ちょっと年季が入ってて、ポケットに穴も開いてたんだけど、ただで譲ってくれるっていうからありがたかった。
ただね、ポケットに穴が開いてるのは彼女の制服の扱いが悪かったわけじゃなくて、わざとやったんだって。ジンクスがあったの。ポケットに穴を開けると、その穴から幸せな恋がやってくるって。
娘さんはそんなご縁なかった、って言ってたらしいんだけど。私は、あったよ。
片野くんとの出会いが。
久しぶりに公園で会えた時は本当にうれしかったな。私、あの頃ずっと片野くんのこと考えてたから。
……私、片野くんに謝らなきゃいけないことがあるの。
私の制服のポケットね、実は片野くんのポケットとつながってたみたいなの。
いつかね、制服のポケットから片野くんの生徒手帳が出てきた。もちろん盗んだわけじゃなくて、いつのまにか入っていたから返さなきゃと思ってたんだけど、またいつのまにかなくなっていて。
そしたら次は、スマホやお金なんかが出てきて……。
しばらくして、ポケットの秘密に気づいたの。
今まで隠していてごめんなさい。
でも、個人情報は見ないようにしたよ。スマホは触らなかったし、小銭なんかももちろん盗まなかったから安心して。
それでね。
……私のポケットの中身も、そっちに行っていたんだよね?
私、クラスメイトにたまに、ノートにいたずらをされてて。悲しい気持ちでそれをポケットにしまってた。でも捨てられなくて。うちの学校はお嬢さま学校なんて呼ばれてたから、みすぼらしい私がそばにいることに気持ち悪さを感じてる、彼女たちの気持ちを否定できなくて。
それでポケットにしまい込んでたら、いつからか、消えてなくなるようになった。
きっと、片野くんが私のかわりに持っていってくれたんだよね。
……ありがとう。
毎日が苦しくて、でもその中で、何も聞かずに寄り添ってくれる片野くんの存在は私にとって希望でした。
私、片野くんのことが、好きです。
いきなりこんなこと言って、ごめんなさい。本当は言わないでいようと思ってた。片野くんは私と違ってたくさん友達がいるから、私なんかに告白されても迷惑だろうし。おまけに引っ越すんだから、今更こんなこと言われても困るってわかってる。
ただ、やっぱり、気持ちだけは伝えたくなってしまって……。
離れても片野くんと文通できたらすてきだなって思ったけど、そこまでおこがましくはないから。最後に、伝えさせてください。
片野くん、ありがとう。
あなたのことが好きでした。
ずっとずっと、ずっと。
あなたの幸せを、祈っています。
百瀬華乃