帰りの車の中では重々しい空気が流れていたが、さやかが口を開いて先程の疑問について問いただす。
 
「ロンシィ、さっきの続きよ。龍矢が化け物の様に変わった事に話して貰うわよ。何も話してもらえないままだと貴方を恨んでしまいそうなの」

 ロンシィは頬杖をついて車の外を眺めながら面倒臭そうにわざとらしいため息をつくが、さやかが諦めなさそうにしているので観念して答える事にした。
 
「ニュースで言ってただろ、失踪者数の事…… あいつを含めて二十人だ。対象は十三歳から十七歳でこれらの裏にはとある組織が関係している。新薬の実験と称して拉致した子供達に薬を飲ませた人体実験を行っていてな、結果はあの通りだ。あれが量産されたら世界中の身寄り無い子供達を集めて生体兵器として紛争地域に送られちまう」

「それを知っているという事は組織を追ってるという事なの? 何の為に?」

「同じ孤児院で育った幼馴染が三年前に拉致された。見つけた訳じゃないが、恐らくはもう…… だから俺は奴らを潰す」

「そうだったの…… ねえ、私に出来る事は何かないかしら? このままじゃ、あの子が浮かばれないわ」

 ロンシィはさやかに振り向いて、感情を露わにしていた。
 
「やめろ! 関わったら間違いなく殺される。アンタだけじゃない。近しい人間含めて全員消されるぞ。余計な事は考えるな」

 さやかはロンシィのその態度に食い下がれず「でも……」とだけ呟いた。
 
「アンタが出来る事は、組織が壊滅する記事が流れるのを待つだけだ」

 それ以降は何も言わずに無言の空気のまま車はただ東京に向かって走っていった。

 ◆

 東京に戻ってきてから一カ月が経とうとしていた。
 
 その間、事務所や自宅に大量のマスコミ関係者が押し寄せたが、ロンシィが全て排除していた。
 
 しかし、人の心の移り変わりは早いものでどこの局も記者も別のスキャンダルに関心が行っており、迫ってくるマスコミ関係者も明らかに減っており、ボディーガードがいなくても問題ないだろうと判断された。
 
 契約最終日となったロンシィが帰る準備をしているとさやかから話しかけられた。
 
「ありがとうね、色々と。心の整理はまだついてないけど、何とか折り合いはつけてみせるわ」