さやかは後悔した。良く考えればすぐ分かる事だ。両親が居ればこんな仕事許可するはずがないのにと。さやかは申し訳なさそうに最後に一度だけロンシィの横顔を見ると、遠い昔どこかで見たような…… そんな表情だった。

 暫くして行動予測範囲内に到着した三人は連絡先を交換してバラバラで捜索する事にした。ただ、「見つけてもすぐに話しかけるな」とロンシィから釘を刺されていた。その時はどういう意味かわからなかったが、さやかも桜庭も首を縦に振っていた。

 さやかの捜索範囲は近場にある森だった。森を抜けた先には川のほとりでキャンプが出来るような観光名所でもあった。
 
 森に入り、木漏れ日が指す光景に『龍矢』が見つかって、もし許してもらえるのであれば、母親として一緒に居させてくれるのであれば、一緒に出掛けてこういう景色を一緒に見て回りたいと考えていた。
 
 母親失格なのは理解している。許されるはずもない事も理解している。自分がしでかしてしまった罪を償う為に毎日、何カ月、何年土下座してでも『龍矢』の近くに居たいと考えていた。
 
 緊急記者会見を行った時に既に覚悟はしていた。女優業を休止――いや、引退してでも構わないと。それだけの覚悟でさやかはここにいた。
 
 
 しかし、その想いは脆くも崩れ去る事になる。


 さやかが抜けた森の先は川が流れていた。そのほとりには砂利が敷き詰められており、キャンプをするにうってつけの様な場所であった。
 
 広い場所に出て大きく伸びをしてから辺りを見渡す。この付近には誰もいないかと思った矢先、ギリギリ肉眼で確認出来る程遠く離れた場所に人影を見つけた。「蹲っている?」様に見えた辰子はその人物の元に近づく。近づくにつれて学生服を着ている少年である事までが分かって来た。龍矢かもしれないと思った辰子は徐々に高鳴っていく胸の鼓動を抑えきれずに近づいていく。ロンシィに「話しかけるな」と言われた事も頭から抜けていた。
 
 さやかは少年に声が届くあたりまで近づいていた。蹲っているせいか顔が確認できない。恐る恐る「り、龍矢? 龍矢なの?」と聞いてみるも返答がない。