『月丘 龍矢』という十六歳の少年が実家から二つ離れた県で行方不明になったこと。現在警察も捜索していること。
 
 ロンシィがチラリとさやかの表情を伺うと、さやかは顔を青くして「なんで…… どうして……」と小さい声で呟きながらカタカタ身体を震わせている。
 
 お茶を持ってきた桜庭が先程まで聞こえていた内容と二人の様子、テレビに映っているニュースの内容を確認して状況を察すると「僕からもお願いします。言い値で構いませんので追加依頼とさせてください」とロンシィに頭を下げている。
 
 ロンシィは頭をポリポリ掻きながら心底面倒臭そうな顔をして「追加料金は覚悟しておけよ」と桜庭が置いたお茶をズズーっと啜っている。
 
「明日になったらこの周辺が騒ぎ出す。今の内に都心を抜けておくぞ」

 桜庭とさやかはロンシィの提案内容に無言で頷き、出発の準備を進めていた。
 
 
 ◆
 
 
 翌日、『月丘 辰子』が女優業を休止すると突然の発表を事務所経由で行い、これまたマスコミもワイドショーも荒れていた。

 この混乱している中、対応は全て事務所に任せて三人は都心から少し離れたビジネスホテルに宿泊していた。
 
 三人は朝食がてら近くの喫茶店で今日からの行動方針について話し合っていた。
 
「今日は『月丘 龍矢』が行方不明となった県まで行く。捜索付近で警察に見つかると面倒なんでな、俺の方で捜索範囲を絞り出す」

 ロンシィは手持ちのノートPCを開いて『月丘 龍矢』が行方不明になった日時、場所から今日に至るまでの行動予測範囲を性別、年齢、性格を元に割り出し地図に表示する。
 
 行動方針が固まり、現地に向かう最中の車の中でさやかはロンシィが自分の子供と大して変わらない年齢なのに何故これ程までの技能を持っているのか、どういった経緯でこの職業についたのかが気になっていた。
 
 聞こうとしてもどうせ断れるのだろうと聞けずにチラチラとロンシィを伺っていたが、その視線に最初から気付いていたロンシィはため息交じりにさやかに問いただす。
 
「さっきからチラチラ鬱陶しいから聞きたい事があるならさっさと聞け」

「どうしてこの仕事をやってるのかなって…… ご両親は何も言わなかったの?」

「大した話じゃない。俺は孤児院出身だからな、運営には金が掛かる。実入りのいい仕事を選んだだけだ」