その言葉に記者の余裕ぶっていた表情が娘の名前を出された事で一気に無表情に変わっていく。
 
「お前は誰だ?」

「俺が誰かなんてアンタにはどうでもいい事だろ? 今ここで大事なのは俺がアンタの情報を握ってるという事。家族構成、住所、交友関係、アンタの大事な娘さんの事も奥さんが入院してる事もね」

 傍から見ていると少年が記者を脅しているようだが、記者はまるで動じていない。
 
「その程度の脅しで引き下がると思ってんのか? こっちはこれで飯食ってんだよ。なんならお前の事も根掘り葉掘り探ってぶちまけてやろうか? アァン?」

 少々脅し口調になって来た記者に対して少年は可笑しくなって来たのか笑っている。
 
「クク、どうした? 余裕がなくなって来てるじゃないか? 別にこっちは脅すつもりなんて一切ないぞ。 ただ、アンタの一部始終を動画に取っているからそれを娘さん――だけじゃなくてせっかくだから学校の生徒や教師、地域住民、奥さんが入院している病院の患者や医者達に公開して意見を聞いてみようと思ってるだけだよ。真央ちゃんのお父さんはこうやってお金稼いでるんだって具合にね。アンタはともかく家族が周りからどう見られるか面白そうじゃない? それとアンタじゃ俺の素性を暴くことは出来ないよ。断言してもいい」

 記者は考えていた。今は間違いなく情報をこの子供に握られている。対して自分はこの子供の事を何も知らない。脅しは通じない。家族を盾にされ、完全に不利である事を理解した記者は降参のポーズをとる。
 
「いいだろう、こちらの負けだ。今回は引き下がろう。けどなあ、この程度で諦めると思うなよ。週刊誌ってのはしつけえからよ」

 負け惜しみの様な発言をして記者は去っていった。そして、その一部始終を眺めている事しかできなかったさやかとマネージャはこの少年がただ者ではないと確信する。恐る恐るマネージャは少年に聞いてみる。
 
「き、君は一体……」

「女優・月丘辰子のマネージャ桜庭さん。あなたからの依頼を受けた民間軍事会社スローター・インターナショナルより派遣されたエージェント、コードネーム・ロンシィだ。よろしく頼む」

 桜庭もまさかこんな子供が派遣されるとは思っておらず、若干秒『えっ?』と固まっていたが、すぐに正気を取り戻して急いで中に入るように促した。