「辰子さん、今日から週刊誌の記者やら芸能関連の記者が大勢押しかけてくるでしょう。僕の伝手で信頼出来る民間軍事会社からボディーガードを一人雇う事にしましたので、当面その人と一緒に行動してください」

 ボディーガードを雇わなければならない事態になるとは自分が考えていたより大事になってしまったとため息を尽きながら事務所付近に差し掛かった時、一人の男性が目の前に現れた。

「どうも。週刊文醜のものですが、本日の記者会見をテレビで見てましてね、多分こっちに戻ってくるんじゃないかと思って張ってたんですよ。正解でしたね」

 突然ビルの間からスッと現れた男は週刊誌の記者で事務所の入り口前を塞ぐように現れた。
 
「申し訳ありませんが月丘は疲れておりまして、また後日お越しいただけますでしょうか」

 マネージャは入口を塞ぐ男を強引に避けて事務所に入ろうとするが、週刊誌の記者はニヤニヤしながら避けて通ろうとする進路を身体で妨害しようとする。
 
「これだけでも答えてくださいよ。今年の主演女優賞のキッカケとなったあのドラマってホームドラマだったじゃないですか。現実はお子さんを十六年間ほったらかして育児放棄しているネグレクトが今更母親面って何のギャグですか? 本物の母親になれなくても役は対応出来る辺りさすが大女優ですね。もしかして今後の役作りの為に育てた事もない子供に会うつもりです? それって血の繋がっただけの他人じゃないですか? だったら血が繋がってなくても近い所にいる子供を使った方が良くないですか? どーなんですか? 教えてくださいよ」
 
 記者はわざと煽るような質問でさやかに質問する。答えるならヨシ、答えなくても煽りに対して怒ってくれてもヨシ。何故ならそれだけでも記事になるから。
 
 さやかは答えない。いや、答えられないのだ。何故なら事実だから。反論したいのに反論できない悔しさに下唇を噛んで我慢するしかないさやか。
 
 そこに通りがったかと思われれる一人の少年が割って入って来た。
 
「さっきから聞いてれば言いたい放題言ってるね。人をそこまで追い込んで楽しいかい?」

「坊やには分からない世界ってものがあるんだよ。いいからどきなよ」
 
「他人を追い込んで記事にして飯食ってる人間の世界なんて欠片も興味ないけど、娘さん――真央ちゃんが悲しがっちゃうかもよ?」