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いつからすきだったのだろう。自覚したのは、その雪のような頬に口づけた瞬間だった。

前日に初めて婚約者と対面したときは、この子が……くらいにしか思わなかった。

家同士が決めた結婚。惣一郎の一言ごときでは覆らないのをわかっていたから、大した反論もせずにこのまま結婚するのだろうと思っていた。だから自分も、父や母のように外に恋人を作るのだろうと……。

でも、淡雪のような少女を見て、不意に手を伸ばしたくなった。

触れたい、と思った。

誰かのぬくもりを求めたのは初めてだった。

その気持ちの正体を知るために、翌日早朝、夏桜院に忍び込んだ。もちろん、ならぬことだと知っていた。端的に言ってしまえば、不法侵入なのだから。

雪の中、桜の古木を一人見上げていた。この雨戸の向こうに、婚約者の少女が眠っている。……昨日、一緒に桜を見上げた湖雪という少女。

そう思うと、ふっと口元が緩んだ。

そして、名家のお嬢である湖雪は自ら扉を開け、その姿を自分にさらした。そのときの驚きよう……今でも思わずクスリと笑いがもれてしまう。前日に逢った跡取りとしての仮面はなく、ただの湖雪がそこにいた。

……この子、すきだな。

最初はそんな感情でしかなかった。可愛い動物を愛でるような気持ちだけだった。この子なら結婚してもいいか。政略結婚の打算を抜きにして、そう思えた。