「湖雪は甘い香りがするなあ」
そう言われた時、ふっと早子の存在を思い出した。
「あの……っ」
お母様がみているのに! そう心で叫んだけど、口は緊張に硬直してしまい動かなかった。
「……私も幹人様の子がほしかったわ」
ぽつり、早子は呟いた。……望めなかった、愛した人との子供。……この子には、その願いを叶えてほしい。
腕の中の湖雪を見下ろす惣一郎の優しい瞳に、ああ……この子は出逢えたんだ……、そう思った。
早子も幹人を慕っている。すき、愛している。……けれど。
「……仲よくね」
二人のように想いを通わせあうことはなかった。幹人が想うのは、妹と知っていたから。
早子は音を立てずに部屋から出た。