やはり外は雪が降っていた。

木製の傘をさして、下駄に足をかける。門前で待っていようかと思ったが、ふと気配を感じて家の裏手に廻った。

敷地内の一番奥、湖雪の部屋の前にある、咲かない桜の大木。咲いたのは、十年前。湖雪がやってきた日。

湖雪を予言の子としたのは、この桜の樹だ。

夏桜院が栄えた理由。それは異能。桜の咲く日に生まれ来る子は、夏桜院に盛りをもたらす。

そう、言い伝えられている。

湖雪のような予知夢――先見の明――に恵まれ、その力を以て夏桜院に繁栄を。

湖雪の予知夢の力は、生まれつきであった。幼い時分、母にそのことを言ったら、誰にも言うなときつく言われていた。だから、誰にも言わない。その約束だけが今、湖雪を母へと繋いでいる。

逢いたいなどとは思わない。早子に何と言われようと、捨てられたことに違いはないのだから。

捨てたのだから、母も逢いたいなどとは思っていないだろう。

それでいい。

自分は捨てられた子。それが湖雪の存在意義。

枯れたように細い枝先に雪の粒を載せる大木を見上げて、湖雪は知らずため息を零した。

きっと、夢の通りになるのだろう。

これから虹琳寺(こうりんじ)の子息の惣一郎と引き合わされて、段取りを決められ、近いうちに――。

「綺麗ですね」