軽く頭を下げて、扉を閉める。湖雪はあたふたしながら口を動かした。えっと……どうしよう今の……。と、とにかく忘れてもらわなくちゃ……っ。

告白は、ちゃんと惣一郎にしたかった。桃花の夢から帰って来られたのも、惣一郎がその約束を未来にくれたからだ。

告白するために、しっかりと想いを―――惣一郎に伝えるために、還って来たのだ。だから、これからも何度だって還って来られると思うんだ。

惣一郎の許ならば……。

「……あのっ、惣一郎様、……今のは聞かなかったことに……」

「出来ない」

惣一郎はきっぱりと言った。

「うっ……」

私の告白……。

「と言うか、する気はないよ、湖雪」

惣一郎は早子とは反対側に座って、湖雪の手を取った。

「湖雪が言ってくれたこと、あの時の求婚の返事だと思うから」

「………!」

「あら、もう求婚していたの?」

早子は、まあ、と口に手を当てる。ちょっと嬉しそうだ。

「俺は……湖雪を妻にしたいですから」

惣一郎は恥ずかしげもなく恥ずかしいことを言う。その真っ直ぐなもの言いに、早子も着物の袂で隠した頬をそっと染めた。家が決めた許嫁が、ここまで娘を想ってくれる人だとは思わなかった……。

湖雪に言葉をかけたい。あなたはきっと、絶対に幸せになれるわ、と。

……でも、今は二人の時間を優先させよう。