それから一緒に暮らすようになって……屋敷の中で、初めて笑っていられる日になった。惣一郎といると、何もなくても、会話がなくても、触れる距離にいなくても―――姿が見えるだけで、笑みがこぼれるのだ……。
惣一郎と結婚したら、こんな毎日を過ごせるのだろうか。……そんな、自分には過ぎた望みを持つまでになってしまった。全部、惣一郎の所為だ。全部、惣一郎のおかげだ。
湖雪にここまで、未来を期待させた。
予知夢を視なくなったのは、湖雪が自分で描く未来を望むようになったからじゃないだろうか……そんなことを思うようになった。
定められた未来を生きるだけではなく、望む未来を持つようになった。
―――惣一郎の、隣にいる自分。初めて―――……
こうなりたい、と思った。
早子はくすりと微笑んだ。
「ですって。惣一郎さん?」
「……え?」
惣一郎さん?
カタ、と小さく音がして、扉が開いた。恥ずかしそうに視線を逸らしながら姿を見せたのは、惣一郎だった。その腕の中で眠った時と変わらない単の寝巻き姿だった。
湖雪は瞬時に頬が熱くなるのを感じた。今の……聞かれていた!?
「湖雪……」
口元を手で覆った惣一郎は、戸口で立ちつくしていた。
「惣一郎さん。いらっしゃいな」
早子は柔らかい笑顔で娘の婚約者を迎えた。
「……失礼致します」