「ええ」

早子は優しく微笑んだ。湖雪の、母。

「お母様」

「なあに? 湖雪」

「……お母様、と……お呼びしてもよろしいでしょうか……?」

「もちろんよ。私は、ずっとあなたの母のつもりでいたわ」

その言葉を聞いて、湖雪はやっと頬を綻ばせることが出来た。

「湖雪……あなたは、惣一郎さんがお好きなの?」

「え……っ?」

「私が勝手に同居なんて決めてしまったけど……湖雪の意思を無視した行動だったと、反省していたの。もし、お好きになれないのだったら……」

「そんなことありません! 私は……その、惣一郎様を…………その………」

「うん? 言って御覧なさい?」

「………惣一郎様を、お慕い申しております………えっと……跡取りとしてのお役目ではなく、惣一郎様の子供を……お産みしたいです」

いつ、すきになったのだろう。

…わからない。最初に逢った時は、この人も屋敷の人と同じだと思った。冷たい、湖雪に微笑む人とたち。この人もきっと、お役目で自分と結婚するのだろうと。だから、体面でしかないと。

二度目に逢ったとき、惣一郎の態度が急に変わったのにびっくりした。まさか朝方屋敷に忍んでくるなんて思わなかった。にっこり笑って頬に口づけて……一体どうしたのだろう。この人は、本当に昨日逢った人なのかと疑ってしまった。でも……そういえばあれはどうしてだろう。訊いていなかった。下手したら通報されていたかもしれないのに……。

訊いてみたい。

三度目は同じ日。口づけられたり、『湖雪』と呼ばれたり……。ドキドキすることばかりしてきた。そのときにはもう、『湖雪と結婚したい』と言われた。今から考えれば、あれは告白だったんじゃないだろうか。