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「――湖雪」

ずっと、呼ばれ続けていた言葉。愛しく、哀しい。

湖雪は薄っすらと瞼を持ち上げた。

惣一郎の胸に寄りかかり、堕ちていたようだ。

「そう……さま………早子さま……」

「落ち着かれたよ」

惣一郎に肩を抱かれて、早子の方を向く。まだ息の荒いものの、先ほどのような恐慌状態からは脱したと見られる。

「よか……た……」

「湖雪」

幹人に、呼ばれる。

湖雪の身体に力が入った。

幹人は湖雪の前に、頭を下げた。

「ありがとう」

声が震えている。湖雪は何をどうしたらいいかわからず、目を瞬かせた。

「湖雪。早子様がご回復なされたのは、湖雪のおかげだったわかっていただけたんだよ」

惣一郎がそっと囁く。

湖雪は身体を起こそうとしたが、力が入らず惣一郎の方に倒れ込んだ。

「湖雪、そのままで」

幹人に示されて、湖雪はふうと力を抜いた。惣一郎が支えてくれる。

「湖雪。ありがとう。早子が、助かった」

湖雪に言葉する手段はなく、微笑むしかできなかった。

次の瞬間には瞼が重く降りてきて、意識が消えた。