湖雪は古木の見た夢に手を伸ばす。

「早子様を連れて行かないで……、お母さんが、私を早子様のところに残してくれたの………私、まだ早子様のこと、呼んでないの………!」

一度も、その関係を口にしたことはない。

「早子様にかかったものは、私に移して。“ひとかた”に、私がなるから」

せめて一度、しばしの時間を。

櫻の宿る古木に願う。


「桜の夢を、私にください」


光を、湖雪が取り込む。




再び目が開いたとき、湖雪は息を飲んだあと叫んだ。

「旭日さん……!」

夏桜院の庭の、桜の木。古木と呼ぶには若々しいその樹の下に、旭日がいた。

湖雪が入り込んだのは早子の夢の中だ。なぜ旭日だけがここにいるのかわからなかったが、そんなことはどうでもいいくらい嬉しかった。

また……また逢えた。

駆け寄って抱き着くと、旭日は湖雪を抱きとめた。