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『桜が散るのは、哀しいわね』


誰かがそう言った。


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帰ってから着物に着替えた湖雪は、幹人の隣に俯き気味に正座していた。

反対隣には早子が、口元を手で覆いながら幹人の叔父の妻の話に笑みを返していた。作り笑いだとか、そんなことはもうどうでもいい。考える時間すら、湖雪には無駄だった。

大叔父は幹人の父の弟。幹人とは六つしか離れていない。確か湖雪より二つ三つ年上の息子がいたはずだ。

……今日はそのために来たようだ。

「惣一朗(そういちろう)君は如何ですかな」

惣一郎―――幹人の口から名前が出た。

「学校が終わりましたらこちらへと、伝えてあります」

大叔父はかしこまった口調で答える。

甥といえど、家格の高い家の当主。気安くは話せない。

それからまた話をして、幹人はふと思いついたように湖雪を見た。

「湖雪。惣一郎君を迎えに行きなさい」

はい、と頷いて、湖雪は場を辞した。

込み入った話でもあるのか。……きっと、あの話だろう。

湖雪は音を立てないように廊下を歩いて、玄間へ向かった。