「そんなこと! ……櫻?」

湖雪が顔をあげれば、涙を流せない湖雪とは反対に、瞳から涙をあふれさせる櫻と目が合った。

「……櫻?」

「湖雪……あいつは何だ? 何で、俺はこんなことになっている?」

「………」

「俺はあいつを殺したくはなかった……何で、こんな風に執着している?」

「………」

「俺は《ゆき》に逢いたくて残ったものなのに……」

湖雪は櫻の涙に触れた。

「……《桃花》だよ。ゆきさんがつけた名前だって……。櫻と、ずっと一緒にいた」

「とうか……?」

心の中に、その名を満たす。

とうか。とうか。とうか。……とうか………。

わからない。

わからなかった。

「………っ」

それでも櫻は、自分の中にその名を探した。これはきっと、忘れては駄目だ。とてもとても――ゆきと同じくらい、大事な名前だと思うから。

とうか、とうか……とうか。

「……とうか」

………呼んでも正体のわからない名前は、確かに愛しいものだった。


「――あああああああああああ!」


屋敷に響き渡る悲鳴が耳をつんざいた。