「湖雪………」

「はっ!」

静かな部屋に、鬼の嘲笑が木霊した。耳障りだ。五月蠅い。お前より蠅の方がよっぽどましだ。惣一郎の中に、湖雪の反応がない不安から、鬼への悪態がたまっていく。

「かっ! 面白ぇ。もろいな、人間の小娘風情が。あの鬼もいつまでも死なねえからそろそろ俺が始末するかと思っていたが――最後に少しは役立ってくれたか?」

惣一郎が刃を引いてしまっていて、自由になった鬼は笑いながら立ちあがった。

惣一郎は鬼を睨みあげた。断片的に聞いた情報でしかないが、こいつ―――《夏居》だ。

魔道に堕ちた、人間。

「あんな屑のなれ果て、鬼として死ねる道理もねえ」

「黙れ下素」

さん、と空気を裂いて、刀が、鬼の額を貫いていた。

惣一郎の刀。だが、その刃を向けたのは惣一朗ではなかった。

「……湖雪?」

惣一郎が顔を向ければ、涙も流せない湖雪が刀を持っていた。

「塵にもならず消え失せろ」

それは呪阻のように響き、鬼を――夏居を壊した。

鬼が信じられないと言った顔を残し――消える。

鬼は鬼にしか殺せない。湖雪は夏桜の――櫻の血を継いだ娘。夏居の最期は、夏桜院の娘の手によって……。

「湖雪……お前」

惣一朗が、呆然とつぶやく。

「殺した。私、鬼を殺した」

淡々と抑揚の一切感じられない声を出した。

「旭日さんと桃花も、……私が殺したんだ」

「違う」

否定したのは、櫻だった。湖雪は振り向き、歯を食いしばった。

「違わないっ! 私が桃花を呼んでしまった。私がこの家に来なければ――生まれてさえなかったら……!」

「お前をこの家に呼んだのは俺だ。そしてあいつに手を下したのも、俺だ」