「その間に人間に生まれても、鬼が目覚めることはなかったようだ。お前が覚醒の鍵だったか……」
どくんと、心臓が跳ねた。
それは、その言葉はまるで――湖雪がいなければ旭日が鬼になることもなかったと言っているようで―――。
「湖雪、お前は目を瞑っていろ」
湖雪の視界は真っ暗だった。目を開けているのに、何も見えない。……夏桜院にあった、唯一の光が消えてしまったのだから……。
「悪いが、こいつに害為すようなら――貴様を壊す」
今は知らないかつての旧知に、櫻は冷徹に言い拳を振り下ろした。
言葉も悲鳴もなく――……鬼は、それが慈悲とばかりに微笑みながら散った。
呆然と座り込む湖雪の手を、惣一郎は握っていることしか出来なかった。
体温が抜けていくように冷たくなる。
たまらなくなって、惣一郎は刀を取り落とし、湖雪を抱き寄せた。
「……湖雪……っ」
返る反応はひとつもない。屍のように、呼吸すらも感じられないほどだった。
魂も抜けていくような気がして、惣一郎は怖くなった。
抱き寄せる腕が強張る。湖雪が淡雪のように消えそうで、必死に掻き抱く。
「湖雪……こっちを向いてくれ……っ」
無理矢理頬を両手で摑んで自分の方を向かせるが、湖雪の瞳はガラス玉のようで、何も映していない。旭日を失ったことが、そばにいてくれたたった一人を失ったことが……もう、涙も流れない。