ゆきこは――二人の幼子は、その大木に宿った両親の影が見えたのかもしれない。ふわっと笑顔になった。見ているだけでこちらまで笑顔になってしまうような、子供の笑顔だった。

桜が咲く。満開の桜の、その中に。

ゆきこは何かを、見つけた。

「わ……、さくら、あんたはすごいね。夏だっていうのに、こんなに咲かせて……」

少女も、感嘆の声をあげた。

そして、ゆきこの身長を合わせてしゃがんだ。

「ゆきこ。あんた、《夏桜》って名乗りな。お前のおかあさんは《夏居》って苗字だったから、おとうさんとおかあさんから名前をもらって、《夏桜ゆきこ》になりな」

少女の言葉を理解出来る年齢かはわからないが、ゆきこは大きく頷いた。両親から何かをもらったということがわかったのだろう。

湖雪は――涙があふれて何も言えなかった。

《夏桜院》の血は、《夏居》の血ではなかった。

櫻はもうずっと前に、結ばれていたんだ。

ずっと、千年以上も想い続けてきた女性と。

……その証は、湖雪だった。

『湖雪』