「ずっと、一緒に生きてきたね。さくらにはずっと、助けられてきたんだ。……さくら、さくらの子供――さくらとゆきの子供、あたしが育ててもいいかな……? あたし、言葉も荒々しくて不自由だけど、ちゃんと、立派な人間に育てるよ。そうしたらいつか、二人ともそのずーっと子供とかに、生まれてきてくれるかもしれないよね……。あたしはずっと鬼だから、ずっと、見ていられるよね……。あたしに名前をくれたゆきと、開闢(かいびゃく)の瞬間(とき)一緒に旅をしてきたさくら」

切なげにそう口にした少女は、「じゃあ……またね」。桜の樹に向かって囁き、衣を風に大きくなびかせ、身を翻した。

――湖雪のすぐ隣を、駆け抜けた。

湖雪は目で少女を追うしか出来ない。

正直、少女の言葉が、呑みこめていなかった。

さくらとゆきの子? ずっと鬼でいる? 育てる、て……。

一体、誰を?

甘い香りがした。

三月の香りに惹かれるように、湖雪はゆっくりと振り返った。

樹から離れた少女が、何か小さなものに突進されたのが目に入った。

「ゆきこ。お前の……じゃない、あなたのお父さんとお母さんに、あい……でもない。ごあいさつしてきたよ。あの、樹が見える?」

《ゆきこ》と呼ばれた子供は、少女の影から大木を見上げて、目を見開いた。

「おとうさん……おかあさん……?」

「そう、あそこにいるんだよ。ゆきこの両親は」