冷悧に惣一郎が言い放つ。
鬼は軽く笑った。
「はっ。ただの人間ごときに俺が命令するか」
「ただの人間だからしてやるんだよ。……それに、貴様は俺より先に湖雪から何か聞いたようだな? 貴様が聞いた言葉ごと葬り去ってやる。――それは総て俺のものだからな」
怒り、惣一郎のそれこそ慟哭(どうこく)だった。
「笑わせる。人間に鬼を殺せると思ったか?」
「鬼は鬼にしか殺せない――だったか? そうだな、俺は人間だか微かながら鬼の血。それだと、どうなるんだろうな?」
惣一郎はためすように笑う。その口元に牙が煌いた――櫻と、同じ。
――彼も、鬼の血なのだ。
「自分で死ぬか、俺に殺されるか――選ぶか?」
その選択肢すら、惣一郎の手中にあった。
ぎり、と鬼が歯ぎしりをする。
形性が不利と悟ったのか、それとも惣一郎に恐怖したのか。湖雪には測りかねたが、どちらにしろこの状況は惣一郎のものだった。
惣一郎は鬼の後ろ首を摑んで湖雪から離した。その時に見えた、惣一郎が鬼に向けていたものは刀。鬼の喉もとに切っ先を触れさせる。
「鼓動一つ揺らがせてみろ――貫く」
惣一朗の言葉に迷いなど微塵もなかった。
「湖雪、怪我はないか?」
惣一郎は、視線は鬼から外さず問う。
「あ……はい」
身体を起こした湖雪は、乱れた衣を直しながら答える。
その気配を感じ取ったのか、今度は惣一郎が舌打ちをした。
「てめえ、湖雪に妙な真似しやがって……どっちにしろ俺が殺す」