二度目、惣一郎にそう呼ばれた。否――惣一郎の瞳ではなかった。彼は日本人らしい黒瞳だが、この人は瞳の色が透き通っている。
……惣一郎じゃない。
「……何者」
湖雪は眉根に皺を寄せて誰何した。
「鬼」
その人は――鬼は、短く答え湖雪の喉に片手を当てた。鋭く尖った爪が皮膚を裂く。
「っ……」
「全く。桜の鬼が貴様を先に見つけられてしまったからな。一度は次を待とうかと思ったが、やはりあの鬼の血が継がれるのは我慢がならん」
(何、を――?)
あの鬼の血? 継ぐとは……どういう意味だ?
困惑するばかりの湖雪に、鬼はギラリと牙を見せた。
「さあ、黄泉へ行こうか」
「――残念だが、湖雪は最期も俺のものだ」
鬼の頭が捕えられ、その首に刃が当てられた。
「鬼がこれほどに跋扈(ばっこ)しているとは驚きだ」
(惣一郎様――!)
彼が、黒瞳の本物の惣一郎がいた。
鬼は相当湖雪に気をとられていたのか、惣一朗を見て忌々し気に舌打ちをする。
「薄汚い手を湖雪から放せ、下賤(げせん)のもの」