旭日が後ろに控えているのも構わず、湖雪は叫んだ。惣一郎の許に駆け寄り、襟首を摑む。

「私は惣一郎様がすきです。お慕い申し上げております。ですから、私と結婚してくださいっ!」

力のままに叫んだ。言葉にするしか――どう伝えていいのかわからない。惣一郎のように器用じゃないんだ。

惣一郎はびっくりした顔で湖雪を見る。

「湖雪……嬉しいのだが、苦しい」

「え?」

言われて手元を見れば、惣一郎の首を絞めあげるように服を摑んでいた。

「あっ、申し訳ありません」

急いで離すと、惣一郎は呼吸を整えてから湖雪を見た。

「いいんだな? 撤回は出来ないぞ?」

「元より。それほどに軽い気持ちでは申し上げておりません」

凛と、返せば惣一郎は破顔した。

「なら、湖雪はもう俺のものだな?」

「……はい」

頷く。惣一郎が両手を広げた。

「おいで」

優しく招かれて、湖雪はその腕に飛び込んだ。

鼓動が聞こえる。愛しい――その体温は何故か冷え切っていた。

「惣一郎様……お身体が冷えて……」

「永い間、待っていたからな」

がくんと、湖雪の視界が廻った。

押し倒された――というのだろうか。

「そう……?」

「本当に待ち遠しかったぞ、桜の娘」