「……………すき………」
愛しい。想う。私は、あの人がすき。
「ならば、伝えて来い」
「そ!? んなこと、出来ないっ」
「してこい。んでさっさとなかなおりしてこい」
「む、むむむ無理っ」
「お前なあ……俺とここにいることにこそ、あいつは更に怒ってると思うぞ」
呆れたように言を呈する櫻の、瞳が哀しくなる。
その瞳が、いつかと重なった。
何かがみえた気がした。
「……《ゆき》さんの、旦那様も……同じことを……?」
妻を殺し、彼女がかくまっていた鬼を殺した。その感情は衝動。名前をつけるのなら――嫉妬だろうか。
鬼は淡く笑んだ。
「かもしれない。ならばゆきを殺したのは、俺だ」
だから、と櫻は湖雪の背中を押した。
「お前は手遅れになる前に道を正せ。そして、迷うな」
「惣一郎様!」
旭日に訊いて教えられたのは、離れの中の使われていない一室だった。
部屋の中で惣一郎は、円窓(まるまど)に頬杖をついて庭を眺めていた。
弾かれるようにこちらを見て、呆っとした表情で湖雪を瞳に映した。
「湖雪……」
「すきです!」