惣一郎はそっと湖雪の手を握り、呟いた。優しい鬼。湖雪を見守り続けてきた――

「……はい」

湖雪は下を向いていた手を返し、惣一郎の指に自分の指を絡ませた。湖雪は無意識にやったことだったが、それに惣一郎の心臓はときっと跳ねた。

……俺、このままで大丈夫だろうか。幹人に叱りつけられることをしてしまわないか……心配だ、ものすごく。

そんな不安を覚える惣一郎にちっとも気づかない湖雪は、まだしていなかった挨拶をした。惣一郎は何とか真顔で返したが……顔がにやけるし緩む。もうどうにも―――湖雪に参っているようだ。

そんな自分に、少し呆れてかなり嬉しくなった。

人を――すきになることが出来た自分。

この子を、大事にしたいと思う自分。

この子を、愛したいと思う自分―――

……この子を、愛している自分。

何だか、自分のことまですきになれそうな気がする。湖雪を想うだけで。

惣一郎は身を乗りだし、湖雪の唇に軽く口づけた。一瞬にして紅くなる湖雪を見て口の端を吊り上げる。

……自分だけが知っている、湖雪のかお。

湖雪は真っ赤なかおで惣一郎を見ている。

また口づけたくなる自分は……自重する。

湖雪とともに初めて迎えた朝。……とても、倖せだと思えた。


……春まだ遠く、桜は雪の姿だった。