その懸念はあたったようで、いきなり牙を見せる櫻だった。深紅の瞳は更に吊りあがり、ざんばらの髪は逆立って見える。

湖雪は言葉を実行しそうな櫻を何とか抑えた。

「落ち着いて櫻、何でそう早まった真似をするの？　私は惣一郎様に起こされただけだから……。もう殺したくないって言ったでしょう？」

「お前のためなら違えても構わない」

真剣に言われて、湖雪は押し黙った。

……この鬼も危険だ。思わず胡乱な瞳になる湖雪。

「そういえば湖雪。なぜこの男がここに居る？　昨日は外に居たが、この姿でお前と同じ部屋に居るとは……」

そこまで言って、はっと何かに気づいた顔をする櫻。

「まさか……いや、ああ。そうかそうか。それならばもう俺のすることはないかもしれん」

ふむふむ、と何やら勝手に納得気に肯いて、

「失礼したな」

ちゃっ、と敬礼みたいな動作をとって部屋を出て行こうとする。

「納得しないでぇええっ！　早子様が惣一郎様の同居を決められてしまったのよぉおお！」

湖雪は両側から苦手な方向に攻められて、泣き顔もままならなかった。

「同居？　そんな話になっていたのか……。おい、湖雪が泣いているんだが？」

「これは四割は卿のせいな気がする」

言いつつも、惣一郎は膝でにじり寄り湖雪の頭に手を置きぽんぽんと優しく叩いた。湖雪はえぐえぐと涙を必死に止めようとしている。

「俺が泣かせはしない。大事にする」

宝ものを見るように、瞳を細めて見つめる。