湖雪は慣れると決めていたのに、突然の惣一郎の言葉にびっくりしてその話の中に入っていけなかった。いきなり結婚を早めてくれなんて言われると思っていなかった。
私……惣一郎様と結婚して、心臓が持つのでしょうか……? 思わず心配になった。
怒るよりも前に惣一朗に土下座で頼みこまれてしまったので、幹人は勢いを殺がれたように押し黙っていた。
激昂したのは早子だった。
「幹人様、これはあってはならないことです。まだ結納も前だというのに無断で連れ回すとは――いくら虹琳寺の子息といえど認められません。それでもこの子と一緒になりたいと言うのなら、ならばいっそこの家で暮らしなさい!」
一同が言葉を失ったのは言うまでもない。
いきり立った早子は、言(げん)を撤回することなく話を進めてしまった。幹人すらも押し切って、惣一郎の同居を決めてしまったのだった。
湖雪はそれほどに怒らせてしまったのかと心が苦しくなった。そんなに私をこの家に閉じ込めておかないと不安なのだろうか……と。
「そ、それにしても敬人大叔父様はよく承諾くださいましたね」
湖雪の声は裏返っているが、これ以上の沈黙はよりきつかった。
「あ、うん。俺があんなに頼みこんだの初めてだったから、それが効いたのかもしれない」
惣一郎の声も落ち着かない。……頼みこんでくれたんだ。
「………」
「………」
また沈黙が降りた。
惣一郎の私室として振られたのが、湖雪の部屋だったのだ。