「あの、どうか……?」
湖雪が歩み寄って隣にしゃがめば、惣一郎は顔を手で覆ったまま細く声を押し出した。
「……あなたは時々大胆すぎる」
でも、と顔をあげた。
「そこが可愛い」
そしてまた頭を摑まれ引き寄せられ――額に口づけられる。
幸いにして通行人がいなかったので、パニックになった湖雪は遁走するだけで惣一郎に実害はなかった。
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雪が降っている。
桜の華はいつの間にか消え、また雪を背負っている庭の古木。
雨戸は閉めず、障子戸の向こうに月明かりで古木の影がうっすらと見える。
そういえば櫻は樹に戻ったのだろうか。――などということは考える余裕など皆無な二人がその古木を臨む部屋に居た。
ドクドクと、もうドキドキなんて心音は赤子のように思えるほど緊張しきって背を向け合っている。
二人は――婚約者同士である湖雪と惣一郎は一組の布団しか与えられていなかった。
「あ、あの……湖雪。やっぱりいろいろと問題があるように思うのだけど」
「わ、私もそう思ったりしています」
夏桜院に帰って――屋敷は落ち着いたものだった。聞けば、予め惣一郎が連絡を入れてくれておいたらしい。
そして幹人と早子に謁見した惣一郎は、結婚を早めてくれるように頼んだ。