声が出たのは惣一郎の腕に収まってからで、振り向けば姿が風に溶ける寸前の櫻と目が合った。

「あとは任せた。覚醒したばかりのこの身体ではこれ以上は持たんらしい。――また逢おう。鬼の花嫁―――」

「………」

湖雪は抱き留められたまま櫻の名を呼ぼうとした。

けれどそれよりも、櫻が残した言葉が小雪の中の何かに引っかかり、言葉することが出来なかった。

櫻の身体――残留思念と彼が形容した、彼が消えた。

その去り方には惣一郎も驚いたようで、櫻が消えてしばらく経ってから、呆然と呟いた。

「本物の……鬼」