惣一郎はにっこりと教えてくれた。
「それは……そうなのですか」
その説明でも湖雪はいまいち《さぼり》の意味はわからなかったが取りあえず、惣一郎も学校に行かずにここにいることはわかった。
言いたいことはあったが、『さぼり』をした惣一郎と同じ場所にいる自分の行動も、『さぼり』なのだろうと思い、黙った。
「ほかには?」
「……櫻のこと、どなたかにお話されますか?」
惣一郎は数度瞬いて、難しい顔でうーんと首を傾げた。
「言わない方がいいかな?」
「……はい、それは」
「そうか。じゃあ言わないよ」
「えっ?」
あまりにあっさり答えた惣一郎に素っ頓狂な声をあげる湖雪。惣一郎はくすくすと笑った。
その笑顔が……とても、嬉しく感じる湖雪だった。
ときん……小さく、胸の中で何かが弾けた………。
「湖雪さんに大切な人がいたとしても、一応は婚約者だからな。君を害するようなことはしたくない」
「あのっ、大切な人……? という意味がわからないのですが、ええと……櫻とは今朝逢ったばかりなんです……」
反射的に、そう訂正していた。惣一郎に――彼の言葉通りに思われるのは嫌だった。いや、それよりも惣一郎に言わなければならないことは――
「ですから、幹人様には言わないでください」
その名を口にした途端、湖雪は知らず拳を握っていた。
その震える手を見遣り、惣一郎は口元を緩めた。
「言わないよ。一度約したものを鬼は違えない」