「だったら何だ。物珍しいか? 人間」

惣一郎の正体がわかった櫻は、わざとそんなことを口にした。

「当り前だっ。本当にいるとは……夏桜院の血は真(まこと)だったのか……!」

……なぜか惣一郎は感喜に打ち震えていた。

湖雪はその喜びように驚いて、今度こそ何も言えない。

ひとしきり感動した惣一郎は、呆然としてしまった湖雪を見て、「ああ、すまない」と姿勢を正した。

「失礼した。俺は虹琳寺惣一郎。鬼の血を引く一族のものだ」

(――え?)

惣一郎の挨拶に、湖雪は耳を疑った。

鬼の血を引く一族?

隣を見上げれば、櫻は深紅の瞳で訝しげに惣一郎を見ていた。

「そう見るなよ、照れるだろう。俺は末裔ではあるが、現代、血は薄い。卿のような確かなものではないんだ」

惣一郎は照れ照れと言った。……朝の妖艶で蠱惑的な雰囲気と打って変わって、少年のようだ。

「……鬼の末裔、ね」

櫻は一人得心がいったように頷く。

「あ……あの、惣一郎様?」

湖雪が挙手して訊ねれば、惣一郎は湖雪を見た。湖雪に怒っている様子もなく、問い詰めるような眼差しなんかはかけらもない。湖雪が先に言葉をかけて大丈夫そうだ。

「あの、色々とお訊きしたいことがあるのですが、まず、何故このようなところに?」

「ああ。サボりだ」

惣一郎は全く悪びれる様子なく答える。

「……さぼり?」

湖雪には聞き慣れない言葉だった。オウム返しにすると、惣一朗はさわやかな笑顔を見せた。

「学校に行かずにここへ来ただけのことだよ。湖雪さん」

え。