「殺されたよ。ゆきの夫に。あいつ――《夏居》の主だったそいつは、ゆきが俺と通じていると思ったらしい。そして俺はそいつを殺した。ゆきも……そいつに殺されたからな。意趣返しだった」
「殺された……」
おびえることのない言葉。これから湖雪が櫻に望むことだから、おびえるのはおかしいと思った。
「ゆきさんが殺されて……その夫君が殺されて……櫻も殺された………」
「まあ、そういう流れだな」
そして、命の物語は――閉じた。
「《夏居》には子供があったから、今の夏桜院はその子らの子孫だろう」
櫻は目を閉じる。その瞼の裏には、一体何が見えているのだろう……。
「……ゆきさんは、櫻を想っていたの……?」
湖雪の言葉に、櫻はパッと目を見開いた後、哀しそうな瞳をした。
「……わからないよ」
「じゃあ、逆。櫻はゆきさんがすきだったの?」
櫻は目を細めた。それだけで、答えだった。
「………そう」
遥か昔に終わった恋を、この、人になりたい鬼は想い続けてきた。
悠久を越えて、永い想いを。
想いを切れず、願い続けた。
さようならの、一言さえなかったから。
再びの、邂逅を。――願い。
「……櫻は優しいのね」