朝――旭日の来る数分前、この鬼は同じことを宣言して、では、と姿を消した。……思わず、その背中を追うように手が動いていたことが悔しくて、自分を戒めるように唇を噛みしめていた。

『生かすのだ』、って……。

「それじゃあ私が生きていないみたいじゃない……」

小さく漏らせば、

「ん? お前は生きているのか?」

車を簡単に操る櫻は、不思議そうにそう言った。

「そりゃあ……」

言いよどむ湖雪に、櫻はズバッと言い切った。

「全く生きたいという意思が見えんのだが」

「………っ」

――湖雪に反論は出来なかった。生きたいという意思……なんて。

「あなた……鬼なのでしょう? どうして車の運転なんか出来るの?」

「ああ、これか? なんだか知らんが今日から新顔が何人もいたようだから、一人に成り変わった。そうすれば堂々とお前の傍に居られるだろう? まあ、学校という場には入れないようだがな」

「………」

全部話してくれるのか。

死ねと言ったり生かすと言ったり、変な鬼だ。

「さあ、湖雪。今日はどこへ行く?」

「……私はいつも通り学校へ向かうのですが」

というかあなた、今『学校』って目的先を言いましたよね? 胡乱な瞳を櫻に向ける。

「む。学校とはそんなに面白いのか?」