旭日と共に私室を出て、幹人と早子の待つ部屋に入りいつも通り食事を終える。その間はやはり会話などは一切なかった。
惣一郎の話も、されなかった。
「湖雪」
席を立とうとして、幹人に呼び止められた。
何かと顔を向ければ、言い忘れていたと言った。
「今日から、虹琳寺家の人間が数人来ている。我が家に慣れるためだ。一応伝えておく」
「はい」
湖雪は肯き応え、居間を辞した。
門までついてきた旭日から鞄を受け取り、車に乗り込む。どうしてか旭日は、いつもと違ってえくぼまで見せた微笑みで送り出してくれた。……旭日さん、どうしたんだろう?
彼女の体調こそ気になる湖雪だった。
「いってらっしゃいませ」
頭を垂れる使用人たちに見送られ、湖雪はいつも通り学校に向かう―――はずだった。
「お嬢だねえ」
声は、運転席からした。……ん? この聞き覚えのあるような……朝に聞いた声のような……いや、でもないよね?
そう思って、いつもなら絶対にしないことだが身を乗り出すと、運転手席の男が振り返った。
「な……っ」
こちらを見たその顔――唇から零れる牙。鋭利な紅い瞳。深紅の髪の鬼……櫻だった。
「な、んであなたが!?」
「ん? 言ったろ。今日から俺がお前を生かすのだと」
からっと笑う櫻。湖雪は頭が痛くなった。思わず額を押さえる。